はじめに
日本の製造業の不振が続いている。特に目立っているのはパソコン・デジタル家電と半導体だろうか。シャープの業績不振は大々的に報道されているが、ソニー、Panasonicなども悪業績が続く。半導体ではエルピーダメモリは破産し、ルネサスエレクトロニクスも業績不振が報道されている。
日本の製造業が墜ちたのは一体なぜだろうか。中国や韓国、台湾などの新興国が技術力を向上させたからだろうか、あるいは低コストな労働者を大量に抱える中国の台頭によるものだろうか。
どちらも一理あるが、根本的な要因とは言えない。
かつて、70代、80年代に日本がアメリカを製造業で席巻していた時のことを考えてほしい。これは、日本の技術力がアメリカよりも上だったからだろうか。または、日本の労働コストが低かったからだろうか。そうではないだろう。
一方、自動車、工作機械、あとは一眼デジカメの分野では、まだ日本にアドバンテージがあるようだ。この差は一体何であろうか。
摺り合わせ型とモジュラー型
自動車、工作機械、一眼デジカメの共通点は、製品の基幹部が機械である、ということだ。部品同士は相互に影響するので、精度の高い特注部品を用いる。また、ある部品の形状や性能が変わると、それが他の部品に影響する。一つの部品変更がシステム全体に影響することもあり得る。そのため、一つ一つの部品は、他の部品開発と摺り合わせを行いながら開発する。(摺り合わせ型開発)
デジタル家電やパソコンの場合、製品はデジタル電子部品で構成されており、部品は標準化されたインターフェイスを用いて他の電子部品と通信する。たとえばパソコンの場合、各部品(CPU、メモリ、DVDドライブ、LCD等)は形状や動作仕様、インターフェイスが規格化されている。パソコンメーカーは部品を外部から調達し、組み合わせるだけでよい。(これはモジュールを組み合わせると言う意味で、モジュラー型開発と呼ばれる)
そういえば、かつて日本の電子機器が世界を席巻していた時代、テレビも音楽プレーヤーもアナログ部品で構成されていた。アナログ部品はデジタルとは異なり、ノイズに弱く、ある部品の特性の変化が他の部品に影響を及ぼす。そのためこれらは摺り合わせ型開発である。
こう考えてみると、日本は摺り合わせ型に強いと言える。では、なぜ日本は摺り合わせ型に強いのだろうか?
日本の組織力
自分は製造業の開発者として、10年以上同じ職場でデジタル機器の開発を携わってきた。そこにあったのは「あ、うん」の呼吸である。自社の製品類に特化した開発・製造プロセスがあり、そして各員はそのプロセスを体で覚えている。お互いの仕事を「あ、うん」で摺り合わせ、一つの目標に向かう。
空気でコンセンサスを取る全体主義というふうに言える。しかし、それは摺り合わせ型開発・生産に適していて、全体的にバランスがとれ、クオリティの高い製品を作り出すことが可能であった。
日本の組織のこの特性について、『日本もの造り哲学』では、戦後のモノもお金もない時代の経済的合理性ゆえに長期雇用・長期取引となり、それが暗黙知によるコミュニケーションを作り出したと述べられており、自分はだいたい納得している。
さらに言えば、戦後からの右肩上がりの経済成長、安定した政治情勢、島国であり移民もないことが、長期勤労・長期雇用・長期取引を作り出し、それに最適化された法整備がされてきたと自分は考えている。
ちなみにアメリカの場合、移民の国であるため、能力のある人を組み合わせてスピーディーに成果を出すことが求められる。(『日本もの造り哲学』より)このような組織では暗黙知によるコミュニケーションは無理である。
他に日本型組織とアメリカ型組織の長所短所を述べると、日本型は組織自体にノウハウが堆積していくのでカイゼンは起こしやすいが、プラットフォームをがらりと変えるようなイノベーションを起こしにくく、アメリカ型はスペシャリストをそのつど雇えばよいのでイノベーションを起こしやすいがカイゼンはしにくい。
今後
かつて日本はその組織力で、摺り合わせ型製品にアドバンテージを持っていた。それを日本の技術力として自負していた。時代が変わり、摺り合わせ型を必要としない製品群でも、いまだに技術力で勝負を賭けている。誰も必要としない機能をゴテゴテつけ、コストを押し上げていないだろうか。
今の時代、部品を組み合わせればどのメーカーも同じものが作れる時代には、戦略やマーケティング、デザインが必要とされる。日本はそれらに弱く、あくまで技術主導である。
自動車産業にしてもモジュール化の波は来ていて、日本のアドバンテージはなくなりつつある。楽観的な未来はない。(参考リンク1,参考リンク2)
参考図書
日本もの造り哲学(藤本隆宏)
イノベーションと競争優位 コモディティ化するデジタル機器(榊原清則,香山晋,延岡健太郎,伊藤宗彦,森田弘一,吹野博志,新宅純二郎,小川紘一,善本哲夫,小笠原敦)
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