2012年1月20日金曜日

三流メーカーが学ぶアップルの6つの戦術 その2

2.iOSのメンテナンス性の良さが生んだ破壊的イノベーション

iPhoneやiPadの良さの一つに、新機種に搭載された最新OSが、旧機種にもタダで提供される、という点があります。OSがアップデートされるたびに新しい機能が使えるようになるので、例え古い機種だとしても飽きることなく使い倒せます。
それ以前のフィーチャーホン(ガラパゴス携帯)やパソコンでは、新機種に搭載された最新ソフトウェアが旧機種にも無償リリースされることはなく、ソフトウェアに対する価値観を覆しました。


アップルはなぜ無償でOSアップグレードが実現できたのか?
ここで疑問があります。
最新ソフトウェアの無償提供という、フィーチャーホンやパソコンでは実現できなかった、あるいは敢えてやらなかったことを、アップルはなぜ実践したのでしょうか?

理由は、フィーチャーホンやパソコンとはOSの調達方法や管理方法が異なるという点にあります。
パソコンに搭載されているWindowsは、パソコンメーカーがMicrosoft社から購入しています。Microsoft社にとってライセンス料はWindowsビジネスの収益源であるため、最新OSへの無料アップデートは不可能です。
iPhone、iPadの場合は、アップル社が自社開発したソフトウェア「iOS」を採用しています。iOSは、iPhone/iPadの歴代ラインナップに共通で使われています。
フィーチャーホンの場合も、ケータイメーカーがソフトウェアを自社開発していますが、製品ラインナップの各製品合わせて個別にソフトウェアを開発しています。メーカーは、各キャリアの要求を受けて次の機種をデザインしていくので、それぞれの機種が独自性を持ち、共通化ができないのです。

一方、iPhone/iPadの場合、複数の機種をまたいで同じCPUを採用していること、ソフトウェアのデザインや機能も共通化することで、ソフトウェアの大部分を各製品で共用し、スマートなソフトウェアの管理を実現しました。
これにより、最新OSを古い製品にも対応させることは容易になります。

Android端末におけるOSアップグレードについて
次は、iPad/iPhoneのライバルであるAndroidケータイ/タブレットについて考えてみます。
Android端末メーカーの中には、旧製品への最新OSアップグレードをサポートしているところもあります。AndroidはGoogleが提供する無料のOSであるため、容易に実現できるかのような印象を受けます。
しかし、アップルによる最新OSの無料アップグレードと、Android端末メーカーによるそれは全く違う意味を持つと、自分は考えています。

アップルの場合は、最新機種の出荷に合わせていっせいに旧機種へのOSアップグレードを展開します。世間の注目度を高め、旧機種ユーザーに最新OSをモニターさせることで口コミを広げるわけです。
しかし、Androidの場合は、そうはなりません。最新OSの認知度を上げたり、ユーザーに最新OSをモニターさせても、必ずしも自社のAndroid端末を買ってもらえるわけではないのです。
しかし他のAndroid端末メーカーがそれをやるのであれば、メリットがなくても、余分な費用が必要になっても、自社もやらなければ競争に負けてしまいます。

アップルが巻き起こす破壊的イノベーション
アップルによる旧機種へのOSアップグレードという取り組みは、アップルにとっては効果的なキャンペーンですが、Windows/WindowsPhoneのビジネスモデルを根底から破壊し、Android端末メーカーをも不毛な消耗戦に巻き込みました。
アップルのひとり勝ちです。うまい戦略だと思います。

2012年1月9日月曜日

三流メーカーが学ぶアップルの6つの戦術 その1

アップル信者なんて言われたくないですが、新製品を毎度楽しみにしてます。新しい市場を次々と開拓し、他社が参入してきた後も存在感を保ち続け、他社製品が安売りされる中でアップル製品は定価で買われていきます。
一方、アップルのようになれない他のメーカーは全くふがいないものです。
自分もメーカー勤めのエンジニアであるので、アップルにうっとりしている場合なんかではありません。アップルから技術や戦略を学び取り入れて、自らの血肉にしていく必要があります。

と言うわけで、ネットや本から情報収集した内容を、自分自身のためにも整理してまとめてみました。

ちなみに、情報の多くは『メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電(西田宗千佳 著)』から得ました。この本は新書の割に内容が濃く、アップルに関する話だけでなく、液晶テレビ、ゲーム機、ケータイ業界の事情などにも触れていて、大変面白かったです。

1.筐体のデザインとコストの両立
アップル製品の外観は、見栄え良く、剛性にも優れていて、他社と比べて一線を画しています。まあ言うまでもないことですが。
当然、他社製品と比べてコストは高いはずですが、ここで注意しておきたいのは、彼らはコストを度外視しているわけではなく、むしろ合理化によるコスト圧縮を徹底しており、コスト圧縮とデザインの両立を追求している、ということです。

例えば、Macbook Airはアルミニウムの削りだしによるユニボティを採用しています。
アルミのユニボディは見た目だけでなく、質感、剛性などユーザーエクスペリエンスも全体的に向上させますが、アップルが向上させているのはユーザーエクスペリエンスだけではありません。

『メイドインジャパン〜』によると、アルミニウムは鉄やプラスチックに比べて再利用性が高く、削りだし処理で発生したアルミくずは再利用できます。また、ユニボディによりパーツ数が減るため、組み立てはシンプルで簡潔になり、中国での大量生産を容易にします。
ちなみに、「削りだし」は「プレス」よりも技術的難易度が高いですが、高度な工作機械をいったん導入すれば大量生産が可能です。 『メイドインジャパン〜』によると、実際にアップルはファナック(日本)のマシニングセンタを導入しているとの話です。
(1月20日削除・・・「削りだし」は「プレス」に比べて加工に時間がかかるため、一般的には量産には向かない技術として知られていますが、アップルのEMSはファナック社のマシニングセンタを購入し、削りだしで大量生産を行っているようです。しかし、この記事のテーマである生産性の改善やコスト圧縮との結びつきは不明なので、いったん削除しました)
Macbook Air分解写真(iFixitより)

iPhone4(s)の場合は、本体の両面にガラスを貼り合わせた筐体になっています。これもアルミステンレス枠(1月20日訂正)とガラス二枚の3パーツ構成であるゆえ、組み立て作業が容易になります。

iPhone 4S分解写真(iFixitより)

コストのためにデザインを犠牲にするのでも、デザインのために生産性を損なうわけでもなく、コスト、生産性、デザインの両立させたアップルの設計はさすがです。
それに比べると、Made in Japanを謳うどこぞのパソコンは、生産性を考慮した設計がされていない、つまりは設計のレベルが低いと言えそうです。

その2に続く