2012年2月22日水曜日

なぜ日本の家電は没落したのか

先日、大手電機メーカーの赤字決算が続々と伝えられ、日系メーカーがグローバル市場の中で苦戦している様を見せつけられました。
原因は、テレビの採算悪化にあるようです。ソニーはテレビ事業だけで8年連続赤字、パナソニックは4年連続赤字ですから、過去から引きずっていた根の深い問題です。
かつてブラウン管の全盛期には、日本は世界シェアを握る強い存在であったのに、どうしてこのように没落してしまったのでしょうか。

2012年3月期の連結純損益予想
パナソニック 7800億円(過去最大の赤字額)
シャープ   2900億円連結純損益赤字
ソニー    2200億円赤字

テレビ事業における損益
ソニー    1750億円赤字(8年連続の赤字)
パナソニック 4年連続の赤字
東芝     400億円を超える赤字
日立製作所  数十億円赤字


直感的に分かりやすい原因として、以下のような外部要因があります。
・国内の特需終了(地デジ移行による特需、エコポイントによる特需)
・社会経済の影響(震災、欧州経済危機、超円高)
・新興国の台頭(中国、韓国)
これらは理解しやすいですが、物事の本質を突いているとは言えません。
本質的な問題点は、日系メーカー、さらには日本の製造業そのものにあるはずで、それを明らかにして、修正していく必要があります。 
 
1.テレビの開発に高度が技術が要らなくなった
もはや、テレビを開発するのに高度な技術は必要ない時代です。
高度な技術を集約した部品、たとえば液晶パネルや映像エンジンLSIなどを外部から購入し、ほとんど組み立てるだけでテレビなど作れるからです。
ブラウン管全盛期、昭和の時代には、テレビはアナログ部品で構成されていました。アナログの世界では、部品と部品が相互に影響を及ぼしやすく、最終的な完成品を動作させるには、それぞれの部品をチューニングする必要があります。
そのため、日本メーカーの技術力や組織力がアドバンテージとなっていました。
1980年代以降のデジタル化、LSIやマイコンの登場によって、高度な技術はLSIやモジュールに集約され、そのLSIやモジュールを入手して組み合わせれば、どんなメーカーでも製品を開発できるようになりました。
今の時代には、技術力は必ずしも必要ないのです。 

2.それでも技術力にこだわる日本勢
技術力がないメーカーでもそこそこの性能のテレビが開発できる時代に、日本はその高い技術力を用いて高性能なテレビを開発し続けました。
液晶パネルや映像エンジンLSIを自社開発することで画質を追求し、他社との差別化を行ってきました。

各社の基幹モジュール自社開発の状況  
シャープ  映像エンジンLSI:外部調達 液晶パネル:自社開発
東芝    映像エンジンLSI:自社開発 液晶パネル:外部調達
ソニー   映像エンジンLSI:自社開発 液晶パネル:サムスンとの合弁会社で開発
パナ    映像エンジンLSI:???  プラズマパネル:自社開発

しかし現実的には、韓国メーカーや有象無象のメーカーによるそこそこの性能のテレビで、人々は満足しています。
日本メーカーが追求する映像美は、一般の人々が求めるレベルを超えてしまい、メーカーの自己満足に陥っています。 
 
3.完成品では儲からない
日本勢は画質を追及するために、映像エンジンLSIや液晶、プラズマパネルなどの基幹モジュールを自社開発し、そこに技術を集約しています。
この際、基幹モジュールを他のメーカーに販売することはありますが、完成品であるテレビを販売することが彼らの目的であるため、高度な技術を集約したモジュールを積極的に外販することはないようです。 
他社との差別化のための戦略部材を他社に流してしまっては意味がなくなる、という考え方でしょうか。
そのため少量生産となり、生産コストは高くつきます。
また、技術力のない業者でもテレビを開発・製造できる時代には、高度な技術を集約した基幹モジュールを積極的に外販し、そこで利益を出すことも必要です。
 
参考図書
メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電 (朝日新書)
西田宗千佳
イノベーションと競争優位 コモディティ化するデジタル機器
榊原 清則